図書館を起点に、まちの情報環境をデザインする/高知県佐川町・情報環境設計プロジェクト

2022-2025

高知県佐川町が図書館を新設するにあたって実施した公募には、通常の図書館の建築プロポーザルには見られない「情報環境設計」という項目が含まれていました。これは、図書館を中心に地域内外に存在するさまざまな情報資源を住民が活用できるような情報ネットワークを構築し、図書館を町の情報環境の起点として位置づけることを目指すものです。建物の実空間と情報空間の設計を最初から一体的に捉える――日本でも先例のほとんどないこのアプローチに対し、リ・パブリックは森下大右建築設計事務所、イシバシナガラアーキテクツ、ハウジング総合コンサルタントと共同で提案を行い、2022年から2025年にかけて新図書館づくりに取り組みました。

文教の町に新しい図書館を

佐川町は、高知市内から車で約45分の場所にある、人口およそ1万2千人の町です。歴史的には、土佐藩筆頭家老である深尾氏の城下町として発展してきました。歴代の藩主が教育を重視する政策をとったことから、郷校「名教館」からは多くの志士や政治家が育ち、県内初の私設図書館「青山文庫」が設立されるなど、「文教の町」として知られています。現在もその文化は受け継がれており、学びに熱心な住民が多く暮らしています。
また、植物学者・牧野富太郎の出身地としても知られ、植物を愛でたり育てたりする文化が根付いている町でもあります。植物を育てる活動や地域学習など、住民によるさまざまな活動が活発に行われています。
旧図書館は、旧税務署の建物を居抜きで使用した小さなワンフロアの施設でした。オンラインで蔵書を検索できるOPAC(Online Public Access Catalog)も一般市民向けには提供されておらず、どの本があるかを知るには、来館するか電話で問い合わせる必要がありました。

一方で、こうした制約の中でも、図書館のスタッフは多くの人に図書館に足を運んでもらうためのイベントを開催したり、「飛び出す図書館」として学校や保育所などで出前図書館を行ったりしてきました。学校の司書教諭と協力し、夏のおばけ話大会や読書スタンプラリーを企画するなど、さまざまな工夫を重ねながら住民に本を届けてきました。
こうした地道な活動は、図書館が地域に果たしうる重要な役割を体現するものであり、やがて「文教の町にふさわしい新しい図書館をつくりたい」という図書館スタッフや住民の思いへとつながっていきました。2012年ごろには、住民の約3分の1にあたる4,200人近くが、新図書館の建設を求める署名を提出しました。そして約10年後の2021年、佐川町が新図書館建設の公募を出したことで、プロジェクトが動き出しました。

図書館を起点としたまちの「情報環境設計」

通常、図書館建設では、まず建物(ハード)の設計が対象となり、その開館に合わせて図書館での活動や情報システム、運営方法(ソフト)が検討されます。しかし今回の公募では、建物の実空間と情報の仕組みを最初から一体的に設計することが求められていました。こうした仕様は、国内でも先例がほとんどないものです。

リ・パブリックはこれまで、「持続的にイノベーションが生まれる生態系(=エコシステム)」の創出を目指し、社会や地域に存在するさまざまな資源を可視化し、それらを新たに結び付けることで新しい価値を生み出す環境や場づくりに取り組んできました。

佐川町の図書館プロジェクトでは、図書館を起点に町の情報や活動を可視化し、それらが相互につながり、住民自身によって新たな関係や活動が生まれていく環境を整えることで、住民一人ひとりの「やってみたい」という思いを支え、実現していく仕組みづくりを目指しました。

まちの活動や資源を可視化するリサーチ

プロジェクトはまず、地域活動を行っている住民団体や、地域の活動拠点である集落活動センターを訪ねることから始まりました。町ではどのような活動が行われているのか、またどのような情報が必要とされているのかを把握するため、フィールドリサーチを実施しました。

調査の過程では、地域の古文書を読み解き、それを町の観光ガイドに活用しようとしている住民など、地域の学びを主体的に深めている人々に出会うことができました。こうした出会いを通じて、町にどのような知的資源が存在し、どのような情報が求められているのかを理解するとともに、「良い図書館をつくれば、それを十分に活用してくれる住民がいる」という確信を得ることができました。

また、この調査には建築チームも同行しました。設計者自身が住民の活動や情報との関わり方を直接把握することで、その後の設計プロセスに活かすことのできる体制を整えました。
フィールドリサーチに加え、地域の情報環境や情報ニーズを把握するため、以下の取り組みも実施しました。

①資源整理ワークショップ
行政職員とともに、町内に存在する活動や情報資源を可視化し、整理するワークショップを実施

②文化施設へのヒアリング調査
情報連携の可能性を探るため、博物館や地質館など図書館以外の文化施設や県立図書館へのヒアリングを実施

③デプスインタビュー調査
住民が日常的にどのように情報を利用しているのかを把握するためのインタビューを実施

ひとりひとりの「やってみたい」から
図書館のかたちを考える

加えて、住民を対象としたワークショップも開催しました。このワークショップでは、「どんな図書館がほしいか」を直接尋ねるのではなく、「この町でどんなことをしてみたいか」という視点から対話を進める、メタファシリテーションの手法を採用しました。住民の「やってみたい」という思いを出発点に、図書館がどのような役割を果たせるのかを考えるためです。

このワークショップには建築チームもファシリテーターとして参加しました。設計者が住民の声を直接聞くことで、建築設計と情報環境設計のあいだに共通理解が生まれ、その後の設計プロセスを支える重要な基盤となりました。

住民がつくる図書館

2024年12月20日、佐川町立図書館さくとが開館しました。リサーチやワークショップを建築チームと共に重ねてきたことで、図書館を利用する具体的な住民像や活動イメージが明確になり、住民の多様な学びの形を支える、館内の6つのスタジオの設計に活かされました。

また、地域資料をデジタル化し、誰もが簡単にアクセスできるデジタルアーカイブや、テーマごとに展示や独自の本棚をつくることができる「モバイル本棚」、デジタルでアクセス可能な情報を紹介する「デジタル資源カード(majima DESIGN制作)」、住民が持つ知識や情報、技能を図書館活動に活かす「住民ガイド」の導入など、さまざまな工夫が生まれています。

現在のさくとでは、住民が講師を務める講座やトークイベント、高校生による発表会など、住民主体の活動が展開されています。さらに、近隣に住む人々が季節の花を活けるなど、佐川町の図書館ならではの風景も見られます。

2026年2月には、開館を祝して開催された「さくとフェスタ」において、人工知能(AI)を活用したワークショップを実施しました。植物の写真から名前を特定するスマートフォンアプリを使い、さくとに植えられた植物を調べる取り組みです。アプリでは特定できない、あるいは誤って判定される植物もあり、図鑑や本で調べたり、住民同士で教え合ったりする場面が生まれました。AIの使い方そのものについても、体験を通して学ぶことのできるワークショップとなりました。

さくとの取り組みを世界へ発信|Next Library 2026 出展

2026年5月、リ・パブリックはさくとの活動と連動して「Next Library」に出展しました!Next Libraryは、デンマークのオーフス市立図書館(DOKK1)が主導し、2年に一度開催される国際カンファレンスです。図書館の未来や新たな価値創出をテーマに、図書館関係者にとどまらず、行政、民間企業、デザイナーなど多様な分野の実践者が集い、キーノートやワークショップ、セミナーを通じて知見を共有します。開催地はデンマークに限らず各地でサテライト開催も行われており、今回はソウルで開催されました。

出展プログラム「Community Archive in Motion: Co-Crafting Photo-Zines Across Borders」では、さくとが佐川町の住民とともに構築してきた古写真のデジタルアーカイブを基盤に、各国からの参加者が自身の記憶や解釈を重ね合わせながら、共同でZineを制作するワークショップを実施しました。このワークショップは、個人的なストーリーテリングとデジタルアーカイブを接続することで、地域資料を文化や世代を越えた対話の基盤として位置づけなおす試みです。

さらに、制作されたZineを佐川町へ持ち帰り地域住民と共有することで、人と情報、人と人との関係性を編み直すと同時に、地域と世界を往還する新たな図書館の役割を提示します。

※本ページのトップ写真は竹田俊吾氏に撮影頂いたものです。

CREDIT

  • 委託者
    佐川町
  • 実施者
    株式会社リ・パブリック
    白井暸
    増井尊久
    鈴木敦
  • 建設設計パートナー
    森下大右建築設計事務所
    イシバシナガラアーキテクツ
    ハウジング総合コンサルタント

RELATED LINKS

佐川町立図書館 さくと

さくとのウェブサイト