この調査は、『横浜市中期計画2022-2025』の基本戦略として位置付けられている「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち ヨコハマ」の実現に向けた具体的な施策を検討する一環で実施されました。横浜市に暮らす子育て世代がどのような課題を抱えているかだけでなく、なぜそのような課題を感じているかという定性的な側面に目を向け、育児者が日々の暮らしにどのような意味づけを行い、何を大事にしながら生活しているのかを明らかにすることを目指しました。
調査におけるデータの集約は、子育ての社会背景を探るとともに自助共助の現在地をさぐる「専門家インタビュー」と、育児者自身が普段の環境や行動を観察・記述する「オートエスノグラフィー」によって行われました。後者はLINEアプリを活用し、今回の調査にご協力いただいた育児者の皆さんに、感情の変化を起点としてテキストと画像を投稿していただいたことによって、通常の参与観察やインタビューでは拾いづらいデータポイントを拾うことができました。加えて、多くの参加者から「誰かが聞いてくれている」という状況自体がとてもありがたかったというコメントをいただき、調査を通してその重要性が明らかになった「小さなケア」を調査プロセスの中でも実践することができたのではないかと考えます。
結果として、横浜市内の育児者が抱える葛藤と、それらに応じるための子育て支援のあり方の方向性を見出すことができました。特に、福祉的な側面が大きい従来型の子育て支援から「こどものいる生活」支援への再定位は、今後横浜市において子育て政策を推進する上で重要な補助線となると考えます。育児者による地域づくり実践のサポートや子育てを多様な人にひらき、分かち合うための場や制度づくりなどを通して、子育て世帯だけでなく、地域に暮らすすべての人にとって暮らしやすく豊かな地域につながることが期待されます。
同時に、本調査を実施する上で参照した「システミック・デザイン・アプローチ」が示唆する通り、ポリシーデザインの実践においては、一つの政策や施策の立案から実装までを個別の完結したプロセスとして捉えるのではなく、さまざまな要素が相互作用し絶えず変化を続ける動的な状況の中で、常に次の政策や施策につながるオープンで持続的なものとして取り組む必要があります。
幸いにも、次年度となる令和6年度、横浜市では本調査で得られたインサイトをもとに、具体的な地域を設定した上で、子育て領域において展開するためのモデル施策を検討する予定です。横浜市での取り組みが、日本における市民参加型のポリシーデザイン実践の先駆的な事例になるように、我々も力を尽くしたいと考えています。
CREDIT
- 委託者横浜市
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