みんなの「やりたい」から始まる、まちの政策デザインラボ|令和6年度 子育て世代の日常生活に関するインサイトを踏まえたモデル施策検討事業

2024

こどもも大人も、当事者として参加する政策立案の場

本事業では、令和5年度、弊社が横浜市の委託を受けて実施した「子育て世代の日常生活に関するインサイト分析調査」を出発点として、「子育てしたいまち推進モデル地区」に選定された青葉区美しが丘公園周辺エリアを舞台に、以下二つの目的を設定しました。

1. こどもが当事者として参加する政策立案の場をデザインし、その設計原則を示す
2. 美しが丘公園周辺エリアの住民の経験と思いを反映させた政策のタネを提示する

2024年9月中旬から2025年1月までの約4ヶ月にわたって実施したプログラムでは、こどもも大人も年齢に関係なく、自分たちが暮らす地域についてフラットな立場で考えるために、フィールドワークを含む市民参加型ワークショップと、その過程で寄せられた参加者の意見や思いを市の職員を中心に分析・統合する分析会をそれぞれ2回ずつ交互に行いました。

ワークショップ1では、参加者が自分の暮らすまちについて、普段どのような思いを抱いているのか、普段の暮らしがどのようであったらよいと感じているかを、幼児・小学生・大人の各チームごとに、まちを実際に歩きながら、それらの思いや考えの背景とともに明らかにしました。

ワークショップ2では、ワークショップ1で浮かび上がってきた意見や思いを分析し設定した「大人もこどもも自分のペースでやりたいことをできる街」というテーマをもとに、幼児チームは粘土、小学生チームは折り紙やイラスト、大人チームはスキット(演劇)を用いてアイデアを検討し、チームごとに発表しました。

今回のプログラムを設計する上で留意した点は、大きく以下の2点です。

1. 当事者としての市民の声を正しく拾う
本プログラムでは、ワークショップ参加者が「政策立案」の共創主体として参加できるように設計しました。単なるお困りごとのヒアリングにとどまらず、ワークを通じて引き出した参加者の潜在的・内発的な思いや考えにもとづいた事務局側による分析が、本人にとって違和感のないものであるかを、透明性を持って確認するプロセスを踏むことを心がけました。

例えば、横浜市の職員が中心となって行われた分析会1の実施後には、その分析結果が参加者の声とどのように接続されているかをお伝えするために、大人向けには資料、こども向けには動画を作成し共有しました。また、ワークショップ2の最後に提示されたアイデアや取組を検討した分析会2の実施後にも、その結果について特にこども達が違和感を感じないかを確認するための動画を作成・共有し、振り返りセッションを行いました。

2. こどもの目線に立った詳細設計
今回のプログラムでは、こどもの権利に関する専門家である(一社)Everybeingのご協力を得ながら、企画・設計から実施まで、全ての段階においてこども目線を徹底することを心がけました。

例えば、ワークショップへの招待状を保護者だけではなくこども自身に宛てたり、会場で呼んでほしい名前を本人に確認したりするなど、一人の人間として向き合い、本人も尊重されている実感をもてるように設計しました。このほか、こどもの集中力が持続する時間を考慮したワークショップの構築や、粘土やスキットなど言語表現に依存しない意見の発表方法を採用するなど、現場での小さな工夫からプロセス全体の大前提となる心構えに至るまで、セーフガーディングの考え方も踏まえながら、こどもが安心・安全に活動に参加できる場づくりを心がけました。

このプロセスを通して得られた知見は、こどもが政策立案に参加する場を今後つくりたいと考えている方々が手軽に参照できるように、『こどもが主体的に参加する場をつくるためのミニ実践ガイド』(報告書内 P30-p37)という形でまとめました。以下に記した5つの「こどもが当事者として参加する政策立案の場の設計原則」をはじめ、こどもの権利を守る上で要となるセーフガーディングの考え方やこどもが関わる場で起きがちな事象とその対応の仕方などを記載していますので、ご興味をお持ちの方はぜひ今年度の報告書をご覧ください。

《こどもが当事者として参加する政策立案の場の設計原則》

1. 独立した人格と尊厳を持った権利主体として、こども一人ひとりと向き合う
2. こどもの意見を大人の価値基準で一方的に解釈しない
3. 場の権威勾配を緩和する手立てを複層的に講じる
4. 全ての意思決定に「大人の都合」が入り込む可能性があることを意識する
5. 言語によらない表現方法を可能にする

最後に、こどもは子育て支援やこども施策に限らず、生活全般に関わるあらゆる領域で当事者であり、社会の未来を担う大切な存在です。令和5年度の調査結果や今年度の報告書の内容が、全国で広がりつつある「こどもまんなか社会」の実現に向けた取り組みを推進する一助となることを願っています。また、こうした取り組みに関わる皆さまが、その過程で得た知識やノウハウを、より良い実践へとつなげる共有知として社会に広く開いていただければ幸いです。

CREDIT

  • 委託者
    横浜市政策経営局経営戦略課
  • プロジェクトメンバー
    Re:public Inc.
    増井 尊久 / 内田 友紀 / 高坂 葉月 / 松丸 裕美子 /
    廣瀬 花衣 / 藤崎 まどか / 市川 文子
  • アドバイザー
    (一社)Everybeing
  • 報告書クレジット
    発行|横浜市政策経営局経営戦略課
    制作|Re:public Inc.
    アドバイザー|(一社)Everybeing
    写真撮影|玉越 信裕
    イラスト|廣瀬 花衣

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最終報告書はこちら

横浜市令和6年度 みんなの「やりたい」から始まるまちの政策デザインラボ 実施報告書

令和5年度の報告書はこちら

横浜市令和5年度 子育て世代の日常生活に関するインサイト分析業務 最終報告書