【報告会】「こどもまんなか社会」実現に向けた挑戦と可能性―子どもとともに“社会のルール”をつくる場の設計に向けて―
2025年7月11日、世田谷HOME/WORK VILLAGE にて、行政・実践者・研究者が集い、「子どもとともに社会のルールをつくる」ための実践知を共有するイベントを開催いたしました。
2023年4月にこども家庭庁が発足し、並行して施行されたこども基本法では「全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること」(基本理念第3条4号)が基本理念として掲げられました。同時に、国や地方自治体がこども施策にこども・若者などの意見を反映することが義務付けられ、「こどもまんなか社会」の実現に当事者であるこども・若者が参加することの重要性が示されました。その後、国や都道府県、市町村などさまざまなスケールで、こども・若者の意見を政策立案プロセスに取り入れるための具体的な留意点や事例をまとめた『こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン』が発表されましたが、現場での実践は始まったばかりであり、各自治体でこどもや若者が有意義な形で政治に参加するための方法論を模索している状況です。
本イベントでは、弊社が神奈川県横浜市の委託を受けて2023年度に実施した子育て世代への定性調査および、2024年度に子どもたちを含めた市民とともに実施した政策デザインプロジェクトについて報告しました。加えて、こども家庭庁による制度的な取り組みの紹介、長野県山ノ内町・東京都世田谷区の事例を紹介いただき、子どもの声をいかに政策に反映していくかを多角的に検討しました。
登壇者による「こどもまんなか社会」取り組み事例紹介
こども家庭庁 出下喜之氏
出下氏には、子どもの意見を政策に反映する仕組みとして「こども若者★意見ぷらす」をご紹介いただきました。この仕組みを通じて、子どもや若者の発言に対するフィードバックを制度的に保障し、一つひとつの意見を重みを持って受け止めることで、彼らが自分の声が反映されていると実感できるよう心がけていると述べました。さらに、適切に意見を引き出すファシリテーターの育成にも注力しており、将来的には各自治体が自律的に子どもの声を取り扱える体制の構築を目指していると強調しました。
【参照資料】
株式会社リ・パブリック 内田友紀、高坂葉月、廣瀬花衣、増井尊久
一般社団法人Everybeing 小澤いぶき氏、西崎萌氏
弊社からは横浜市と協働で実施した「子育て世代への定性調査と政策デザインプロジェクト」を紹介しました。子育て支援ではなく「子どものいる生活」そのものを支える視点から、子どもと大人がともに参加する場の設計を提示しました。子どもの意見を聞く姿勢や方法論については一般社団法人Everybeingの協力を得て、キャラクターやぬいぐるみを用いた非言語的表現を取り入れることで、子どもが安心して意見を伝えられる工夫を重ねました。こどもが政策デザインに参加するためのこうした実践知は「ミニ実践ガイド」として報告書でも公開。弊社の内田は、失敗や改善点を含めて公開することで今後の現場で更新されることを願い、「私たちの屍を越えていってほしい」と笑いを誘いました。
【参照資料】

長野県山ノ内町 教育長 竹内延彦氏
2019年に「子どもがまんなか 未来を拓くひとづくり」を基本理念とした教育大綱を掲げた山ノ内町。今年3月には子ども基本条例が制定されました。竹内氏はその背景として、子どもたちの自己肯定感の低さに強い危機感があったことを挙げました。「子どもはすでに主体性や意見を持っている」という前提に立つことが、自治体としての基本姿勢の出発点であるとし、「与える教育(遊園地型)」から「ともにつくる教育(原っぱ型)」への転換が必要だと共有いただきました。
【参照資料】
東京都世田谷区 子ども・若者支援課 佐藤亮氏
2001年に東京23区で初めて制定した「世田谷区子ども条例」を改正し、2025年4月に「世田谷区子どもの権利条例」として施行した世田谷区。改正に際しては、子どもたち自身の意見を反映すべく、中学生・高校生による「子ども条例検討プロジェクト」が実施され、今回はその様子が紹介されました。大人は伴走役に徹し、中高生主体で目指すまちの姿や条文の表現を検討。パンフレットのデザインも子どもたちの意見を参考に決定されました。時に市民からの厳しい意見に直面しながらも、子どもたちは「意見がきちんと受け止められたとき、私たちは喜びを感じる」と語り、対話を通じた共感と学びのプロセスが築かれていました。
【参照資料】
登壇者によるクロストーク
発表に続くクロストークでは、現場の実践を通じて浮かび上がった問いや学びが率直に語られました。特に印象的だったのは、「子どもの声をそのままに」という姿勢の難しさと可能性についてです。
内田は、ワークショップの中で子どもの発言をどのように再提示するか、大人たちが細心の注意を払って検討したことを紹介。「そのまま残す」ことの難しさと、それを実現するための不断の試行錯誤が共有されました。
竹内氏は、参加者からの質問である「子どもたちの自己肯定感と有用感への配慮」に沿って池田町在任時に出会った女の子のエピソードを紹介。「お手伝いはしなくていいから勉強しなさい」と言われることに悩む声から、「未熟だから何もできない」と大人が決めつけることで、子どもからチャンスを奪ってしまうと問題提起しました。「信じて子供に任せること」が信頼関係を育むというメッセージは、参加者から多くの共感を集めていました。
佐藤氏は、「選択する権利がほしい」と語った子どもたちの声を紹介し、選択肢を大人が与えるのではなく、子どもと一緒に考える必要性を強調しました。加えて内田は、時間配分や言葉の使い方など、制度設計の多くが大人基準でなされていることに気づかされたと振り返りました。
もっとも、その場で拾える声には限界があり、すべての子どもの声が反映されているわけではないことを常に自覚しておく必要があります。一般社団法人Everybeing の小澤氏が指摘するように、子どもの権利があらゆる場面で尊重されるよう継続的な取り組みを進めること、さらに「私」という存在が一個の主体であると同時に、他者にとっての環境でもあるという視点を持つことが重要です。この気づきを通じて、一人ひとりにできることが確かに存在することを実感する機会となりました。

こうした対話を通じて浮かび上がったのは、「子どもを一人の主体として真正面から受け止めること」、そして「大人自身も、子どもとともに変わる存在である」という視点です。制度や条例の整備が目的ではなく、よりよいあり方を目指してともに問い続けるプロセスを、こどもや大人が共有すること。こどもたちが「意見を聞かれる対象」から、「ともに問いを立てる主体」として捉え直されること。本イベントで共有された実践知や試行錯誤の蓄積が、今後、様々な自治体の現場で参照され、さらに良い実践へとつながる共有知として社会に広く開かれることを期待しています。
